小学校一年生の姪が,誕生日に本が欲しい,とのことで本屋さんを巡っていたところ,「『フィンランド・メソッド』で親子で100冊本を読もう」と謳った本が目に止まりました (北川達夫監修,フィンランド・メソッド普及会編 (2006) 『親子で書こう!100さつ読書日記』 発行:経済界. ISBN-13: 9784766783810)。1冊読むごとに,親子でその本について対話をして子供から読書の感想を引き出し,読書日記をつけていきましょう,というもので,幼児から小学校低学年程度まで,日本語で出されている本 (翻訳も含む) が100冊,シールつき (!) で推薦されています。この本は,フィンランドの小学生がつけている読書日記をモデルにしたものということです。(ちなみに,姉妹書として小学生むけの『小学生100冊読書日記』 (ISBN-13: 9784766783742) も発売されています。)
この本の狙いは,子供に読後の感想を求め,さらに「どこが面白かった?」「どうして面白かった?」というふうに,対話によって感想を具体的にしていきく訓練をしましょう,ということのようで,「フィンランド・メソッド」はこのような対話法を指しているようです。「どうして?」という問いで考えを深める方法は,フィンランドの国語教育でよく見られるものだそうで,フィンランドの小学生の読解力の高さはこの方法で訓練されているところが大きいと監修者らは考えているようです。フィンランドの図書館利用率の高さ,一人が読む読書量の多さも,まずは100冊めざしましょう,というこの本のコンセプトに影響を与えているに違いありません。
フィンランドが OECD による最近の 学習到達度調査 (PISA) において,2回連続読解力世界一であったことはよく知られています (これについては以前 記事 として紹介しました)。『親子で書こう!100さつ読書日記』 の監修者らは,「フィンランド・メソッド」を紹介する書籍 (北川達夫 & フィンランド・メソッド普及会著 (2005) 『図解フィンランド・メソッド入門』経済界. ISBN-13: 9784766783476) も刊行しています。それによれば,フィンランド式の国語教育は「グローバル・コミュニケーション力」を身につける教育であり,「日本の学校では,グローバル・コミュニケーション力の教育をおこなっていません。そもそも,日本の教育界には,そのための教育メソッド自体が存在しない」(p. 24) と述べられています。
そもそもグローバル・コミュニケーション力とは何でしょうか?著者らによれば,この力は国際的に通用するコミュニケーション能力で,「相手がどこの誰であろうと,自分の言いたいことを理解させる能力。そして,相手がどこの誰であろうと,その言うことを理解する能力」(p.18) だそうです。先ほどの読書日記で,「どうして?」という問いで考えを深めさせる方法は,相手の立場に立って考え,高度な議論をおこなうための基礎訓練として,フィンランドの国語の授業で徹底的におこなわれているというわけです。
日本人は読解力というと,書かれたものを読んで正確に理解することに終始しがち。PISA に現れた読解力の違いは,相手がどうしてこのような意見を持っているのかを把握し,その理由について議論する能力の違いであり,日本の (少なくとも「国語」の) 教育ではこの能力を訓練する場がない,という見方には,一理あるような気がします。(フィンランド以外の北欧諸国の教育はどうなんだろう,ということがよく分かっていない私には,「フィンランド・メソッド」という呼び名は,ちょっと鼻につくのですけどね。)
ちなみに,後者の本で「カルタ」と呼ばれている,フィンランドの国語教育でよく用いられているという発想法は kartta 「地図」のことです (恐らく日本人に親しみやすいよう,あえて「カルタ」と呼んでいるのだと思いますが,イメージはずいぶん違います)。正式には käsitekartta 「概念マップ」 [
Wikipedia] や ajatuskartta 「アイディアマップ」と呼ばれ,キーワードを中心に自由に関連する言葉やイメージを描いていくこの手法,もともとイギリス人のトニー・ブザン氏 (Tony BUZAN, 1942-) が1960年代に開発したブレインストーミングの手法「マインドマップ Mind Maps ®」 [Wikipedia] を手本にしているそうです (前掲書 p.28,ただし,英語の Wikipedia の解説によれば,ブザン氏が提案するルールに厳密に従わないものを指して idea map ということがあるようです)。マインドマップはもともと記憶力の訓練やアイディアメモの効果的な作成などを意図して作られたもの,ということですが,フィンランドでは子供の教育に応用しているところが非常に新鮮です。(なお,日本語でのマインドマップの書き方は,伊藤賢さんの mindmap.jp に詳しく紹介されています。また『図解フィンランド・メソッド入門』にも簡単な紹介があります。)
さて,話が前後してしまいましたが,『親子で書こう!100さつ読書日記』 には,ざっと見たところ,マウリ・クンナス Mauri Kunnas [Amazon.jp
] の絵本 (『大時計のおばけたち』『サンタクロースと小人たち』,いずれも偕成社刊,稲垣美晴さん訳) が2冊紹介されているだけで,フィンランドの本自体はあまり紹介されていませんでした。結局,姪っ子には,読み終わったらまた何か送ってあげられるように,と中島和子さんの「ベンチになったまじょ」のシリーズ [Amazon.jp
] と寺村輝夫さんの「こまったさん」シリーズ [Amazon.jp
] から1冊ずつ選んで送りました。他によいシリーズがあったら,どなたか教えてください。(「こまったさん」は1年生にはまだちょっと難しすぎたかもしれませんね...)
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